日々、会議に追われ、即レスに疲れ、やることは山積み。そんな“忙しいのに成果が見えない、自分の人生をコントロールしている感がない”社会人の方に役立つ記事になっています。
グレッグ・マキューン氏の『エッセンシャル思考』は、あふれるタスクに振り回されている私たちに、「本当に必要なことだけに集中する」という力を取り戻す方法を教えてくれます。
「やらなければならないこと」が多すぎる。
すべてに応えていたら、結局どれも中途半端になってしまう。
こんな感覚を抱えたまま働いている人にとって、本書は「自分の人生を再設計するための道具」となるはずです。
忙しさを捨て、「より少なく、しかしより良く」を選んだ人の話
本書の冒頭で紹介される、ある女性
のエピソードが心に残ります。
彼女は「仕事ができる人」として同僚や上司から信頼され、次々と仕事を任されていました。
最初はその期待に応えることが嬉しく、キャリアの成長にもつながっていたのですが、次第にすべての依頼に応えているうちに、心身ともに余裕を失っていきます。
そんな中、彼女は立ち止まり、自分に問いかけました。
「本当に私は、いま大切なことに集中できているだろうか?」
その後、彼女は仕事の優先順位を徹底的に見直し、「自分にしかできない、最も価値のある業務」以外を思い切って減らしました。
もちろん最初は戸惑いもあったそうですが、結果的には仕事の質が上がり、職場での評価も向上。
さらに、家族や友人との時間も取り戻すことができたといいます。
「すべてに応える」ことが必ずしも「成果」につながるとは限らない。
むしろ、絞ることこそが人生と仕事の質を高める──この実例は、本書の中核「より少なく、しかしより良く(Less but better)」の思想を象徴しています。
「本書はあなたの人生をスッキリさせるための片付けコンサルタントのようなものだ」という言葉も印象的です。皆さんも、クローゼットの中に「着る服」、「着ない服」が混合していないでしょうか。常にクローゼットが整理されていれば、毎日の服を選ぶ時間も短縮されます。「いつか着ることがあるかもしれない」といった考えはやめて、ここ一年間で着ていない服は思い切って捨ててみるのもいいでしょう。
そして、あなたの頭の中のクローゼットもスッキリさせることで、決断疲れも減り、疲れることなく本当に力を注ぐべきことに集中することができるのです。
スティーブ・R・コヴィー氏の教え──「重要事項を優先せよ」という人生哲学
『エッセンシャル思考』を読み進める中で、繰り返し登場するのが、スティーブン・R・コヴィー氏(『7つの習慣』の著者)の思想です。
本書では細かく書かれてはいませんが、彼が講演などでよく語っていた「大きな石と瓶」の話はエッセンシャル思考の考え方と言えます。有名な話なので、知っている人も多いかもしれません。
人生という瓶に、最初に砂や小石(=ささいな用事や雑務)を入れてしまうと、あとから「大きな石(=本当に大切なこと)」は入りません。
逆に、大きな石を先に入れておけば、その隙間に砂や小石も収まるのです。
「大きな石」を入れるとは、自分が何を大切にして生きるのか、人生において譲れない価値観は何か──そうした問いに対する明確な答えを持ち、それを行動に優先させることです。
また、本書の中では、シンシアという女性の印象的なエピソードが出てきます。当時12歳だったその女性が父親にサンフランシスコの出張に連れて行ってもらった時の話です。
シンシアは数ヶ月前から父親とのデートを楽しみにしていました。事前に立てた父親とのデートプランは完璧でした。父親の講演を最後の1時間だけ聴き、ケーブルカーでチャイナタウンに向かう。好物の中華料理を食べて映画を観る。その後ホテルに戻り、プールでひと泳ぎ。ルームサービスで生クリームたっぷりのデザートを食べて気が済むまで深夜のTVを堪能する。
父親とシンシアはその計画を何度も念入りに話し合いました。計画を立ててワクワクするのも旅行の醍醐味です。
ところが当日、講演会場を出ようとした時に父親が男性から声をかけられます。その男性は父親の同級生で、今回の出張における仕事相手とのことです。久しぶりの再会に二人ともテンションが上がります。
そして男性が「この先の埠頭に美味しいシーフードを食べさせる店があるんだ!よかったら一緒にどうだい?もちろん、シンシアも一緒にね!」
父親は「君と仕事ができて嬉しいよ!埠頭でディナーとは最高だろうね!」と回答します。
シンシアは”そんなところで大人たちの話も聞きたくないし、シーフードも好きじゃない。これで中華料理も映画もおじゃんだ。何もかも計画が台無しになってしまった。” そう思いました。
ところがその後父親は「でも残念だけど今夜はダメなんだ。これから特別なデートの予定があるんでね。そうだろ、シンシア?」
その後、二人は一生忘れられないサンフランシスコの夜を過ごしたのです。この出来事により、シンシアと父親との間にはかけがえのない絆が生まれます。「父親はこの時に私のことを最も大切な存在だと示してくれました」とシンシアは振り返ります。
このシンシアの父親がスティーブン・R・コヴィー氏です。ビジネスだけではないコヴィー氏のエッセンシャル思考がよくわかるエピソードであり、読んでいてグッときました。
忙しい社会人が陥りがちな「非エッセンシャル思考」5選
本書を読む中で、自分自身にも多くの“非エッセンシャル”な行動があることに気づかされました。
以下は、特に多くの社会人が無意識のうちに陥っているであろう5つの例です。
あらゆる会議に出席してしまう
招待されたら出ないと失礼、と思っていませんか。
しかし、目的や自分の関与度が曖昧な会議への出席は、貴重な集中時間を奪います。
出る価値があるのか?を毎回見極める姿勢が必要です。
常に即レス・即対応を求められていると信じている
メールやチャットにすぐ反応できることを「有能さ」の証と捉えてしまいがちです。
しかし、それは他人のスケジュールに自分の思考と時間を明け渡す行為でもあります。
即時反応よりも、意図を持って集中する時間こそが、より深い成果を生み出します。
断ることへの恐れから、すべての依頼を受けてしまう
「いい人」と思われたくて、すべての仕事に「はい」と答えていないでしょうか。
結果、自分の時間が奪われ、肝心の業務が手薄になる。
断る勇気は、長期的に見れば周囲の信頼を得るためにも不可欠です。
細かすぎる完璧主義
資料のフォントを1ポイント調整し、パワポの図形を数ピクセル揃える…。
こうしたこだわりは時に必要ですが、「目的に対する貢献度」で判断する必要があります。
完璧主義が目的からズレると、かえって非効率になります。
忙しいことに安心してしまう
スケジュール帳が真っ黒=価値がある、という錯覚。
忙しさは充実とは違います。
むしろ、「忙しさ」はエッセンシャルなものを見失っているサインかもしれません。
「ノー」は拒絶ではない。「自分を守る」選択である
本書で語られる、マキューン氏自身の経験も象徴的です。
第一子の出産直後、重要クライアントとの会議の招待を受けた彼は、その価値を理解しながらも「参加する」選択をしました。
その後、彼は深く後悔します。
「なぜ、自分にとって本当に大切な瞬間を、他人の期待に譲ってしまったのか」と。
この経験は、「ノー」と言えなかった代償が、時として取り返しのつかないものになることを物語っています。
マキューン氏は語ります。
ノーと言うことは、誰かを拒絶することではなく、自分の人生の質を守るための行為だ。
断ることは不親切ではありません。
むしろ、「本当に向き合うべきこと」に誠実であり続けるための、勇気ある選択なのです。
エッセンシャル思考を実現する3つのステップ
エッセンシャル思考は、単なる効率化ではなく、「意志ある生き方の選択」です。
本書ではこの考え方を、以下の3つのステップで整理しています。
見極める(Explore)
- 「これは本当に、自分にとって重要なことか?」
- 「やることで、何を失うのか?」
こうした深い問いかけを通じて、自分の価値基準を明確にします。
捨てる(Eliminate)
- 「重要ではないもの」を選び取って断る
- 期待や誘惑に引きずられず、「やらないこと」を明確にする
ノイズを取り除くことで、本質が浮かび上がります。
仕組み化する(Execute)
- 「集中する仕組み」「邪魔を減らす環境」を整える
- 習慣として、本質を優先する日々を積み上げる
無理なく継続するためには、意思の力だけでなく「設計」が欠かせません。
エッセンシャル思考は、「誰にでもできる人生の再設計」
『エッセンシャル思考』は、派手なノウハウや難解な理論ではありません。
むしろ、誰にでもすぐに始められるシンプルな問いを土台にしています。
「いま自分がやっていることは、本当に必要なことか?」
この問いを習慣にするだけで、人生は少しずつ変わり始めます。
忙しさに流されるのではなく、「自分の人生を自分で選び取る」という感覚が、日常に戻ってくるのです。
おわりに──選ぶ力が、人生を変える力になる
『エッセンシャル思考』は、私たち一人ひとりに問いかけてきます。
──このまま、すべてに応える人生を続けるのか?
──それとも、本当に大切なものにだけ応える人生を選ぶのか?
その選択は、今日からでも始められます。
あなたが「ノー」と言うことで守れる時間があります。
そして、あなたが「イエス」と言うべきことは、そんなに多くないのです。
迷いの多い現代だからこそ、「選ぶ力」を持つことは、人生の質そのものを左右します。
一度立ち止まり、自分にとっての「エッセンシャル=本質」とは何かを、ぜひ考えてみてください。
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